交通事故で生じる休業損害の期間・算出方法
1.休業損害に関して
(1)休業損害
休業補償というのはどの様なものでしょう?
仮に交通事故でむちうち症と考えられる痛みが首に出ました。
そのため
①整形外科や整骨院に通い
②治すために今の仕事を休んだ
③仕事を休んだことから収入がDOWNした
この3つの必要条件を満たしたら収入の減少を補償する休業損害が認められます。
ですから
・整形外科や整骨院で治療をしてもらったが、仕事を休まなかった
・仕事は休んだが、整形外科や整骨院で治療をしなかった
・仕事は休んだが収入の減額はなかった
といった場合、休業損害は認められないです
(2)収入減少が適用される期間はいつまでか?
ケガのケアの理由で仕事をお休みして休業補償が認められたにしても、どのタイミングまで仕事を休めるのでしょうか?
休業損害が適用されるのは、交通事故が理由のケガの
①「治癒」(ちゆ)・・・「怪我が治った状態のこと」、「完治されたこと」
②「症状固定」・・・「一定レベルまでケガが治った状態だがこれ以上改善が認められないこと」
までの間、被害者が仕事をお休みした、収入がDOWNした場合になります。
余談ですが、症状固定は、病院や整骨院で先生から言われる時もあれば、保険会社との交渉で決められます。
治癒あるいは症状固定となるとその後、事故のケガの治療については仕事をお休みしても休業損害は認められないです。
(3)休業損害が適用される人、適用されない人
休業損害に関しては、どんな方でも認められるものにはなりません。
労働している人に休業損害が認められます。
労働しているというのは
①会社員やOL
②個人事業主
をしている人を指します。
ですから、労働していない
・無職者
・幼児、生徒、学生
においては、休業損害が認められないです。
ただし例外としまして主婦(主夫)には、休業損害が認められています。
また、交通事故の怪我の治療を受けても収入の減額の無い人には、休業損害が認められないです。
例をあげると
・銀行や郵便局のなどの利息で生活している人
・地主、家主など不動産収入で生活している人
・会社・団体の役員
・年金生活者
(4)休業損害はいくらまで適用されるのでしょうか?
休業損害に関しては
1日当たりの収入(所得)額×休業日数
で求めます。
1日当たりの収入(所得)額は、5,700円です。
1日当たりの収入(所得)額は5,700円未満の場合は、5700円に引き上げられます。
なお、1日当たりの収入(所得)額が5,700円を上回る場合、収入(所得)の裏付けが必要となります。
そして1日当たり5,700円を上回る収入の裏付けのある場合だと、最高で1日あたり19,000円まで認められます。
反対に収入(所得)の根拠がないと5700円以上の収入(所得)を認められません。
休業日数の数え方は、会社員や自営業の人などで変わります。
2.仕事別の休業損害に欠かせない書類と算定
(1)会社員、OLの休業損害に不可欠な書類と算定
総括
・会社員、OLの休業損害に不可欠の書類は休業損害証明書と源泉徴収票
・休業損害=事故前過去3か月の給与総支給額÷90日×休業日数
【給与所得者】
会社員、OLは、給与所得者と呼びます。
給与所得者というのは、特定の会社やお店と雇用契約を結び、仕事した相当分の給与をもらう人のことになります。
特定の会社や店に勤めていたとしても、保険の外交員やホステスなどは個人事業主となると考えられます。
【必要な書類】
会社員、OLの休業損害の証明は
①職場が発行する休業損害証明書
②源泉徴収票
が必要とされます。
この休業損害証明書を職場が発行しなければ休業損害は認められません。
職場が休業損害証明書を発行しないケースでは、被害者自身で休業損害証明書を記入してはいけません。
加えて源泉徴収票の添付をしないと定額5700円までしか認められません。
【休業損害の計算】
給与所得者の休業損害の計算に関しては
事故前過去3か月の給与総支給額÷90日=1日当たりの収入(所得)額…①
で休業損害日額をだします。
給与の総支給額は、所得税控除前の金額になります。
①の計算で1日当たりの収入(所得)額が5700円未満となったケースでは、5,700円に引き上げます。
休業損害日額の上限は、19000円になります。
①の計算で19,000円を超えたケースでは、19,000円とします。次に①の1日当たりの収入(所得)額に休業損害証明書に記載の休業日数を掛けます。
1日当たりの収入(所得)額×休業日数=休業損害
これによって、休業損害額を知ることができます。
【計算の実例】
会社員のAさんは、追突事故のむち打ち症と診断されました。
2週間入院し、退院後1週間仕事を休業しました。
休業の期間給与は支給されません。
休業損害証明書を確認してみると事故前過去3か月間の給与額は、
3か月前が25万円、
2か月前は20万円、
1か月前は23万円でした。休業日数は、Aさんが欠勤した3週間の中で土日休みが6日あったので、15日となりました。
Aさんの1日当たりの収入(所得)額は、
(25万円+20万円+23万円)÷90日≒7,555円
休業損害額は、Aさんが15日休んだので
7,555円×15日=113,355円
となるのです。
(2)事業所得者の休業損害に不可欠な書類と算定
総括
・事業所得者の休業損害に不可欠な書類は確定申告書の控えの写し
・休業損害は
①青色申告のケースでは
(確定申告書の所得額+青色申告特別控除額)÷365日×休業日数
②白色申告のケースでは
確定申告書の所得額÷365日×休業日数
【事業所得者】
事業所得者と呼ばれているのは、分かりやすく言うと、個人でショップを経営している自営業や医師、弁護士、税理士等の自由業、プロスポーツ選手、生保外交員、ホステスなどといった職業の人を指します。個人事業主とも呼びます。
【必要な書類】
事業所得者の休業損害の証明に不可欠な書類は、税務署の受付印のある確定申告書の控えの写しが求められます。
他に
・総勘定元帳などの帳簿類
・現実に収入が減少したことの証明する書類
が必要になるケースがあります。
【休業損害の計算】
事業所得者の休業損害の計算は、事故前年の確定申告を使用します。
①事業所得者が青色申告をしているケース
(確定申告書の所得額+青色申告特別控除額)÷365日×休業日数=休業損害
でだします。
※確定申告額の所得額というのは
総収入-必要経費-青色申告特別控除額
でだします。
※特別控除額は、65万円と10万円の2種類あります。
②事業所得者が白色申告をしているケース
確定申告書の所得額÷365日×休業日数=休業損害
でだします。
※確定申告額の所得額とは、総収入-必要経費で算定します。
【休業日数】
事業所得者の休業日数は、入院日、通院日の実治療日数ということになります。
ですから、ご自宅で安静にしていましても、整形外科や整骨院へ通院しなかった日は休業日数としません。
【計算例】
大工のBさんは、むち打ちなどによって10日間整形外科で治療されました。
Bさんは治療を受けた日の仕事を休んでいました。
Bさんの昨年の総収入は、400万円、経費は80万円であった。
確定申告は、白色申告をしたといいます。
Bさんの1日当たりの収入(所得)額については
(400万円-80万円)÷365≒8,767円
休業損害額は、Bさんが10日休んだから
8,767円×10日=87,670円
となるのです。
(3)主婦(主夫)の休業損害に不可欠な書類と算定
総括
・主婦(主夫)の休業損害に不可欠の書類は住民票
・休業損害は5,700円×休業日数
【家事従事者】
主婦あるいは主夫は、家庭内で食事を作ったり、掃除機をかけたり、洗濯をしたりと家事労働を専門にしている人のことを表しています。家事従事者とも呼びます。
ただし、一人暮らしのケースでは家事を専門のにしていても、家事従事者とは言いません。
【必要な書類】
主婦(主夫)の休業損害の証明に不可欠な書類は、世帯主を確認することを目的に住民票が不可欠になってきます。
【休業損害の算定】
主婦(主夫)の休業損害の計算については
休業損害日額定額5700円×休業日数
で計算します。
ただし主婦(主夫)がパート・アルバイトもやっている場合、1日当たりの収入(所得)額は、パート・アルバイトからの1日当たりの収入(所得)額と定額の5700円を比較して、高いほうを1日当たりの収入(所得)額とします。
【休業日数】
休業日数は、入院日、実通院日のみで計算します。
自宅で安静にしていた日は休業日として数えません。
【計算例】
①専業主婦のC子さんは交通事故でむち打ち症となり3日間入院となりました。
退院後、主婦業はできるようになりました。
C子さんの休業損害については
5700円×3日=17,100円
となるのです。
②パートと主婦業を兼業するD美さんは交通事故でむち打ち症となり5日間入院となりました。
D美さんのパート勤務先の1日当たりの収入(所得)額を計算すると3,000円でした。
パート・アルバイトからの1日当たりの収入(所得)額と5700円を比べると5,700円のほうが高いのでD美さんの1日当たりの収入(所得)額は5,700円となりC子さんの休業損害は
5,700円×5日=28,500円
となります。
【家政婦を雇った】
家事を家政婦に依頼したケースだと
1日あたり家政婦代×休業日数
として休業損害が認められます。
※家政婦代の領収書が必須です。
そして、家政婦代が休業損害となったケースは主婦(主夫)である被害者の休業損害を別途で認められなくなります。
(4)パート・アルバイトの休業損害に不可欠な書類と算定
総括
・休業損害の証明は、勤務先発行の休業損害証明書が不可欠。
・休業損害の計算は、事故前過去3か月の給与総支給額÷90日×休業日数
・勤務時間、勤務日数によって、休業損害日額が5700円
同じ職場で1年以上パート・アルバイトをしていた人には休業損害が認められます。
【パート・アルバイト】
ある会社やお店と雇用契約を結び、働いた分の賃金をもらう人のことをさします。
ですが、その職場で1 週間の労働時間が 30 時間未満の人が、パート・アルバイトになります。
【必要な書類】
パート・アルバイトの休業損害の証明は、勤務先発行の休業損害証明書が不可欠になります。
源泉徴収票、確定申告書が必要になるケースもあります。
【休業損害の計算】
会社員・OLと同じ計算式を使用します。
事故前過去3か月の給与総支給額÷90日×休業日数
で休業損害をだします。
【休業日数】
休業損害証明書に記載されている休業日数になります。
【高校生・大学生のアルバイト】
高校生や大学生は、原則休業損害が認められないです。
ただし、勤務期間が年間で通じての継続的な勤務であり、勤務先の発行の休業損害証明書などの証明資料の提出があれば休業損害は認められるケースがあります。
【計算例】
Eさんは、スーパーのアルバイトに従事しています。
1日の就労時間は6時間、1か月23~24日出勤がありました。
むち打ちでアルバイトを8日間休み、出勤後2日治療のため早退と遅刻がありました。
事故前過去3か月のアルバイト代の総支給額は
3か月前が8万円
2か月前は8万円
1か月前は8万円
となっています。
1日当たりの収入(所得)額は(8万円+8万円+8万円)÷90日≒2,666
となりました。
ただ、1日の就労時間は6時間、1か月23~24日出勤のため、Eさんの休業損害日額は5,700円に引き上げられます。
そして、2日の早退・遅刻を2日の休みとして数えますので、
Eさんの休業損害額は
5,700円×10日=57,000円
となります。
3.休業損害の特殊なパターン
総括
・3つの会社で働いている際の1日当たりの収入額は、3社の合算になる
・就職内定者でも証明書類があれば休業損害が認められます
・小規模法人の役員でも証明書類があれば休業損害が認められます
(1)被害者が複数の会社に勤務していたケース
休業損害証明書や源泉徴収票をもとに、定額5,700円~19,000円の間で認定されます。
【計算例】
Gさんは3つの会社で仕事をしていました。
むち打ちの治療のため、土日を除き20日休み。
甲会社から月12万円×事故前過去3か月=36万円
乙会社から月8万円主×事故前過去3か月=24万円
丙会社から月6万円×事故前過去3か月=18万円
事故前過去3か月78万円の所得があります。
Gさんの休業損害は
78万円÷90日×20日≒173,333円
となります。
【注意】
複数の会社で働いていて、それぞれから受け取った賃金が休損日額定額5,700円を下回っていても、5,700×3社=17,100円という計算にはなりません。
(2)就職内定者
休業損害は所得の補償ですから、無職者に原則休業損害は認められません。
しかし、治療期間中に就職が決まっていたケースだと、休業損害が認められます。
その証明として
・雇用契約書
・求人広告
・初任給を明示する資料
などが求められます。
(3)従業員が数名くらいの規模の小さな会社の役員
会社等の役員(取締役)の役員報酬は労働対価だとは言えません。
ですから、交通事故のケガ治療のために役員の人が仕事を休んでも収入は減ることがないので、休業損害は発生することはありません。
ですが、個人事業主と変わることのない規模の小さな会社なんかもあり、そのような会社の役員が仕事を休むと営業できなくなるという事はよくあります。
そこで、規模の小さな会社の役員には、休業損害が認められるケースがあります。
原則休業損害日額として、5700円が認められます。
5700円を上回る場合、確定申告書などの収入を証明する書類が必要となります。
また、事故によって、業績が悪化しことを会計帳簿などによる証明が必要となります。
休業日数は、実治療日で算定します。
だから自宅で安静にしていた日は休業日数として計算しません。
4.全体の総括
休業損害は、休業損害を象徴するには、収入を裏付ける証拠の書類が不可欠となります。
書類があれば保険の場合には請求が認められやすいですから、請求時に外すことができない書類を管理しておくことは、重要だと断言できます。